ふるさと食文化の旅:愛媛

愛媛

愛媛県は四国の北西部に位置し、愛媛県の属する瀬戸内海や宇和海には約200の島々を有する。佐田岬の先端と九州・大分県の佐賀関を流れる豊後水道は、瀬つきのマアジやマサバの漁場で、佐田岬に水揚げされた魚は「岬」の名がつき、九州・大分県の佐賀関に水揚げされた魚は「関」の名がつく。山間には宇和・大洲などの小さな盆地が散在し、全体的には山が多く、南部は山地が海にせまり、沿岸はリアス式海岸となっているので、沿岸で漁獲される魚を水揚げする漁港は多い。

宇和島には蒲鉾類が多い。仙台藩・伊達政宗が宇和島へ移った時に、仙台の笹かまぼこの技法が宇和島に伝えられたといわれている。愛媛県は山が多く、その斜面を利用して発達したのが、かんきつ類の生産であった。温州みかんや伊予柑の他、品種改良を重ねデコポンやその他のかんきつ類が開発されている。

郷土料理

魚

宇和島沿岸は波が静かなので、マダイ・ブリ・ヒラメ・フグ・シマアジなどの養殖が行われている。海面漁業で水揚げされるものには、佐田岬の伊方町の岬アジ・岬サバ・イワシ・カツオ・マグロ・タチウオ・マダコ・イカ類などがある。

郷土料理には大皿によそった素麺の上に、煮つけたマダイを載せた「鯛めん」がある。祝い事に欠かせないのがタイ飯である。ご飯の上にたれに漬けた刺身をのせ、溶き卵をかけて食べるのがタイ飯である。前もって卵とダシを溶いておいて、この中に鯛の刺身を入れて味を浸み込ませてからご飯の上にのせて、お茶をかけて食べる地域もある。

ブランド魚介類としてヒオウギ(イタヤガイ科の仲間)・マハタ(漁獲量が少ない)がある。

肉

銘柄豚の「愛媛甘とろ豚」は、大洲・西条地域で5年もかけて開発した豚である。希少価値の高い中ヨークシャー種を種豚とし、柔らかくジューシーな肉質の赤身である。脂肪の融点が36℃で、人間の体温で溶けるほどなのが、甘味の大元といわれている。「媛っこ地鶏」は4元交配の鶏である。蜂蜜・バター・シラスなどを餌の中に混ぜたものを飼料とし、ストレスをかけずに飼育している。

野菜

伝統野菜には、サトイモの「女早生」、「伊予緋カブ」「庄ダイコン」「白イモ」「紫長大葉高菜」がある。「伊予緋カブ」は、江戸時代に滋賀県原産(日野の紅カブラ) のものを、参勤交代の折に持ち込んだものといわれている。松山地方では晩秋の頃に収穫し、塩漬けして熟成させ、砂糖・ダイダイで調味した赤色のカブである。

伝統料理

たいめし(鯛飯)

熱いご飯にタイの刺身をのせ、生卵を入れて熱い調味液をかけて食べる料理である。もともと漁師の料理で、重労働の漁師には体力をつける格好の食べ物であった。南北朝・室町・戦国時代に瀬戸内海で横行していた海賊(村上水軍)も好んだことから「海賊飯」の別名もある。

愛媛県でも今治・波止地方では、ご飯を炊く時にウロコや内臓を除いたマダイを丸ごと入れ、醤油・だし汁・酒・塩の調味液を加える。炊き上がったら、マダイは身を残し骨をとり出す。身とご飯をまぜてタイ飯を作る。

行事食

松山のてっぽう雑煮

松山周辺の雑煮には、サメの湯ざらしと干し魚を入れる。てっぽうは、「毒素を持つフグの肝臓を食べると命を落とす」ことから鉄砲に喩えられるが、実際にはフグを使わずに、干し魚を水戻しして煮物にする。ニンジン・ダイコン・ゴボウ・ほうれん草はあらかじめ茹でておいて具に使う。椀の底に輪切りにしたダイコンを敷き、その上に丸餅・魚・野菜の具をのせた雑煮である。

食のこぼれ話

養殖マダイも赤い訳?

愛媛県の宇和島はマダイやハマチの養殖の盛んなところである。初期のマダイの養殖では生け簀の水深が浅く、太陽光線が当たるためマダイの表皮が黒くなり、マダイの証しである赤色が現われなかった。今は餌に含まれる天然色素により、養殖マダイの表皮も赤い。