はし休め
日本橋倶楽部会報3月号(第498号)
【三月号】
「あいまいな別れ」
戦後の日本に未曾有の爪痕を残した東日本大震災から今月で丸10年の年月が経とうとしている。災害発生後、全国の警察官、消防士など延べ142万人が岩手、宮城、福島の3県へ派遣され、行方不明者を捜索したが、昨年その任務を終了した。死者15,884人、行方不明は未だに2,640名に上る。一方、本年1月で26年を経た阪神・淡路大震災の死者は6,434人、行方不明者3名。この行方不明者数の差は津波がもたらしたものに他ならない。行方不明者とは「所在不明かつ死亡の疑いがある者」を指す。遺体も見つからない家族や友人の突然の別れに死を受け入れられず、今でも隣の部屋で寝息を立て、 いつものようにあの声で呼びかけられ、ふと町で見かけ咄嗟に後を追い、そして我に返る。「どこかで生きているの?」予期しない喪失に罪悪の意識すら感じてしまう。
現在のコロナ禍でもこの「あいまいな死」に対する心のケア―が課題となっている。別れの言葉も告げることもできず、葬儀すら立ち会えないまま、多くの人々が逝ってしまった。今月は日本橋を渡りながら、沢山の懐かしい声に耳を澄ませ、そして「さよなら」と呟いてみよう。 小堺